「アノード」と「カソード」について~その(2)~

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『「アノード」と「カソード」』に関する記事(「アノード」と「カソード」について)は以前にも書いていますが、今読み返してみるともう少し体系的な説明ができる気がしましたのでこの記事を書きました。以前に書いた記事とは、切り口が異なるだけで、互いに矛盾することを書いているわけではありません。どちらでも納得のいく方を参照して頂ければと思います。

前提条件(「アノード」と「カソード」だけから考える)

 以前の記事でもかきましたが「アノード電極」と「カソード電極」(以下、単に「アノード」「カソード」とします)の概念を分かりにくくしている原因のひとつに日本語化した時の用語の不統一が混乱の原因だと思っています。そこでこの記事の前半では、「アノード」「カソード」を日本語化せずに説明したいと思います。

 (※そうは言っても、他の文献では日本語で説明されているものもありますので、この記事の後半で多少強引ですがゴロ合わせでの日本語化する場合についても説明したいと思います。)

「アノード」と「カソード」の本質的な役割

「アノード」「カソード」は本質的にそれらの電極を含むデバイス(電池、ダイオード、陰極管等)内部での電子のやり取りの機能を基にして決められるものです。

 「アノード」「カソード」をデバイス内部に含む系は、電気回路の一部を形成しますので、全体として「閉ループ回路」を形成します。「アノード」「カソード」以外の要素は「電源(電池)」「抵抗」等で、「アノード」「カソード」を持つデバイスに対抗する位置で「閉ループ回路」を形成します。ここで「電源(電池)」「抵抗」等の要素は、「アノード」「カソード」を考える上で重要ではないので、思い切ってブラックボックスにしてみました。

 上図のようにすると、「アノード-カソード」の系の外は配線材で接続されていることになります。この「閉ループ回路」が動作すると、注目している「アノード-カソード」系の中では、「アノード」が「電子」を受け取り「カソード」から「電子」が放出されます

このように考えると、「アノード」「カソード」は以下のように説明できます。

アノード:配線で結ばれていない「アノード-カソード」系内で電子を受け取る電極

カソード:配線で結ばれていない「アノード-カソード」系内で電子を放出する電極

この原則は、以下に示す3分類でも成立します。

「アノード」と「カソード」を持つ系の3分類

「アノード」と「カソード」を持つ系は、以下の3分類に分けて考えることができます(電気化学分野は(3-a)電池系と(3-b)電池”以外”(電気分解、めっき)系で細分化しています)。

(1) 真空(プラズマ or 電子線)系

(2)半導体(ダイオード)系

(3-a)電池”以外”(電気分解、めっき)系

(3-b)電池系

(1) 真空(プラズマ)系

電池の+(プラス)極に繋がれている真空管(放電管ともいう)の電極がアノードとなります。機能としてはアノードは真空中から電子を受け取る電極になります。電池のー(マイナス)極に接続されている電極はカソードとなります。機能としてはカソードは真空中から電子を放出する電極になります。

(2)半導体(ダイオード)系

電池の+(プラス)極に繋がれているダイオードの電極がアノードでダイオード内で電子を受け取る電極になります。電池のー(マイナス)極に接続されている電極がでカソードは真空中から電子を放出する電極になります。

上記の図では、+電荷を持つ粒子をホール(正孔)として描いていますが、これは便宜上の記述で、物理的に+電荷をもつ粒子は存在しません。実際に物理的に存在する粒子は、-電荷を持つ電子だけで、バルク材の中から電子が移動してなくなると相対的に+になるので、それを+粒子とみなしてホール(正孔)と呼んでいます。そういう意味からも、ダイオードのような半導体素子のアノードとカソードの概念も電子の受け渡しの観点から説明することが可能となります。

 また電子部品単体(ディスクリート)でのアノードとカソードの見分け方ですが、端子の長い方がアノードで端子の短い方がカソードになります。

(3-a)電池”以外”(電気分解、めっき)系

電池”以外”の電気化学分野の場合は、「電気分解系」「めっき系」が考えられます。「電気分解系」でも「めっき系」でも電池の+(プラス)極に接続されている電極がアノードとなります。機能としてはアノードは溶液内から電子を受け取る電極になります。電池のー(マイナス)極に接続されている電極がカソードとなります。機能としてはカソードは溶液内へ電子を放出する電極になります。

(3-b)電池系

 ”湿式”電池にしろ”乾”電池にしろ下図の赤枠線で囲まれた電池内部では、「アノード:電解質相から電子を受け取るカソード:電解質相へ電子を放出する」という、原則通りの動作を行っています。

 ”湿式”電池の代表である「ボルタ電池」「ダニエル電池」で「アノード」「カソード」「電解質相」に注目した場合でも、冒頭に示した原則どおりの動作をしております。

アノード:配線で結ばれていない「アノード-カソード」系内で電子を受け取る電極

カソード:配線で結ばれていない「アノード-カソード」系内で電子を放出する電極

「アノード」「カソード」を上記の原則通りにの原理・機能・役割の観点から説明すれば、全て同様に説明することが可能になります。

 それでは、なぜ「アノード」「カソード」を日本語に訳した時、電池系と真空系、半導体系、電池”以外”系で用語が異なるのでしょうか?次で、その理由を推測してみます。

電池系の電極の日本語訳だけ異質な理由

 真空系であれ半導体系であれ電池”以外”系であれ、これらの要素・デバイスは電気系の要素として動作する際は「閉ループ回路」内に組み込まれて使用されます。そして、これらの要素・デバイスが動作する際は、正常に動作しているかどうかについてその要素・デバイス内部に注目されます(真空系であればプラズマor 電子線が発生しているか?、半導体(LED)系であれば発光しているか?、電池”以外”系であれば電気分解できているか?めっきできているか?等)。そのため、これらの要素では、「アノード」「カソード」がその内部でおきている動作・作用に注目されて、同じ基準で判断され(電子の授受)、日本語訳も「陽極」「陰極」で統一されているのだと思います。


一方、電池系の場合、上記「閉ループ回路」に安定的に電流を供給する「電源」としてのデバイス機能が求められます。その場合、「電源」デバイスは内部での電極の動作・機能にはあまり注目されず、外形的に見た際の電極が電流を供給する側であれば+(ブラス)極なので正極、電流を受ける側であればー(マイナス)極なので負極としたのではないでしょうか?。

 基本的には、どの「系」でも電極を指す用語としては「アノード」「カソード」を使用することを優先して(日本語訳を使用しない)、どうしても使用する場合でも、むしろ「電池系」の日本語訳だけが例外と割り切って考えれば、混乱を招かないのではないでしょうか。

日本語化する際の少し強引なゴロ合わせ

 上記にも書きましたが、「電池」は例外で、「電池”以外”」を標準と捉えれば、「電池”以外”」の「アノード(Anode)」「カソード(Cathode)」が”あいうえお”順でも、アルファベット順でも正順序となります。「陽極」「陰極」「陽-陰」(+、ー)と日本語でも正順序となります。標準の「電池”以外”」での組み合わせは、「アノード(Anode)」-「陽極」,「カソード(Cathode)」「陰極」の正順序通しの組み合わせと考えます。図示すると下図の様になります。


 次に電池について考えます。最近リチウムイオン電池の発火事故などが問題になっています。発火問題は安全に関わってきます。安全を英語でいうと「safe」=「セーフ」=「になります(少し強引かも知れませんが、ゴロ合わせなのでご容赦ください)。そこから、電池の「正極」「負極」につながります。

電池の日本語の極性名は「正極」「負極」は上記の方法で覚えられたとして、それが「アノード」か「カソード」かを判断する必要があります。電池は例外と考えると、標準の「電池”以外”」の逆を割り当て下図の様になります。

このように考えれば、思い出すのに多少時間がかかるかも知れませんが、正解にたどり着けると思います。

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