「アレニウスプロット」と「供給律速」と「反応律速」

Engineering

 アレニウスプロットというものがあります。横軸に[1/T(k)]をとり、縦軸に成膜等の成長速度[(um/min)]を取り、横軸の[1/T]を片対数グラフでプロットすれば、グラフは直線状になります。この直線の傾きが活性化エネルギーを表しており、「供給律速」や「反応律速」の判断が可能になります(後述)。

アレニウスプロット

 アレニウスプロットによるグラフの例を下記に示します。

アレニウスプロットの導出

 アレニウスプロットはアレニウスの式から導出されます。アレニウスの式はある温度で化学反応の速度を予測する式です。それを下記に記します。

 反応の速度定数 k

で表されます。

 この両辺の自然対数をとると、

となり、次のように置き換えると、1次式 y = m x + bになります。


これをグラフ上にプロットすると、最初に示したグラフの様になります。そのグラフの傾きm(= – Ea/R)が右下がりになっているのは、活性化エネルギーを気体定数で割ったものに、ー(マイナス)をかけたものだからです。

アレニウスプロットの直線が途中で折れ曲がる場合

 アレニウスプロットを描いていると途中で折れ曲がる図が出てくることがあります。

この場合、Ea1(傾き:小) < Ea2(傾き:大)となり、化学反応過程が異なっていることを示しています。

Ea1(傾き:小)の場合の化学反応過程を供給律速

Ea2(傾き:大)の場合の化学反応過程を反応律速

といいます。

CVD等の薄膜生成からの説明

CVD(Chemical Vaper Deposition:化学気相成長法)はガスを原料として、基板(バルク)上に薄膜を形成する技術です。このCVD法等を使った場合に「供給律速」「反応律速」が問題になることがあります。この時、ガス流れは大きく2つに分かれます。気流として扱える「気相」と流れが基板(バルク)の影響を受ける「境界相」の2つです。

目的の薄膜は図中の結晶成長によって得られます。この時、結晶成長の速度(1/時間)は、「気相」から「境界相」へのガス供給の速度と、「境界相」上で結晶成長する速度の遅い方で決まります。

供給律速

 「供給速度」<「反応速度」の場合、下図で説明すると「結晶成長」の「反応速度」が大きく(時間は短い)、原料ガスの「供給速度」が小さいので、「供給律速」になります。極端な言い方をすると、この反応モデルでは、(基板上での結晶成長が一瞬でなされるとかんがえると)「気相」から「境界相」へのガスの移動速度(1/時間)で薄膜の成長速度(1/時間)が決まります。「供給段階」が「反応度」を「」するので、「供給律速」といいます。

「反応速度」が大きいとは、活性化エネルギーが小さいということになります。

Ea1が小さいということは、アレニウスプロットの傾き、-Ea1/R は緩やかな右下がりになります。

反応律速

 今度は、反応律速について考えてみましょう。

 「供給速度」>「反応速度」の場合、下図で説明すると「結晶成長」の「反応速度」が小さく(時間は長い)、原料ガスの「供給速度」が大きいので、「反応律速」になります。極端な言い方をすると、この反応モデルでは、「境界相」中の「結晶成長」の反応速度(1/時間)で薄膜の成長速度(1/時間)が決まります。「反応段階」が「反応度」を「」するので、「反応律速」といいます。

「反応速度」が小さいとは、活性化エネルギーが大きいということになります。

Ea2が大きいということは、アレニウスプロットの傾き、-Ea2/R は急峻な右下がりになります。

均一な薄膜生成のためには「反応律速」の方がいい

1.「供給律速」の場合、基板(バルク)上の薄膜の膜厚均一性が悪い

「供給律速」の場合、基板(バルク)上の結晶成長速度が速いことを意味します。結晶成長が速いとは、原料ガスが供給されるとすぐ結晶成長(薄膜形成)することを意味します。この時、原料ガスの供給状態に偏りがあると結晶成長(薄膜形成)もその偏りを転写する形で、均一性が悪くなります

2.「反応律速」の場合、基板(バルク)上の薄膜の膜厚均一性が良い

「反応律速」の場合、基板(バルク)上の結晶成長速度が遅いことを意味します。結晶成長が遅いと、原料ガスが供給されても、すぐに結晶成長(薄膜形成)せず、基板(バルク)の上部でガスが一時滞留します。この原料ガスが一時的に滞留してから、ジワジワと結晶成長(薄膜形成)していくので薄膜も偏りがなく、均一性が良くなります

少し強引な例え

 少し強引かもしれませんが、供給律速反応律速を高速道路から大きな料金所を経て一般道路へ出で行く自動車に例えてみます。現在は、料金所はほとんどETC化されていますが、以前ETC化される前は、本当に高速道路の利用料金を現金で払うか、クレジットカードで払っていたので頻繁に料金所で渋滞が起こっていました。

1.ETC化後 = 供給律速

 ETC化後は料金所で渋滞が発生することは減ったので、高速道路の出口でバラけた分布状態に近い形で料金所に入り、その形に近い形で料金所から出てくるので、高速道路から出てきた分布状態が悪い場合、料金所以降も分布状態が悪いので供給律速と同じ状態といえます。

2.ETC化前 = 反応律速

 ETC化前は、料金所で支払いをするため渋滞が発生します。しかし、料金所のゲートからは一定の時間間隔で車が出てくるので、分布状態は良い状態です。反応律速と同じ状態といえます。

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