小説「暗約領域 新宿鮫XI」の書評・レビュー

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(※内容について本文で一部言及しています。未読の方はご注意下さい。)

 今回レビューするのは新宿鮫シリーズの「 暗約領域 新宿鮫XI 大沢在昌 著 光文社」のレビューです。

新宿鮫シリーズの11作目ですが、本作は発売時に一度読んでいます。しかし次作の「黒石」は先日レビューしたのですが、いざ読んでみると11作目(本レビューです)との繋がりが多く、なんとか読めたのですが、本レビューで取り上げた「暗約領域」をもう一度読み直した方が頭に入るだろうということで復習の意味合いも込めてもう一度読み直しました。

最初に読んだのは2020年で3年後に読み直したことになるのですが、読み直してみると結構細部は忘れていて愕然としました。さすがに小説の冒頭は覚えていました。あとところどころ、印象的なエピソードは覚えていたのですが(神奈川県警の鑑識課員に情報をもらう場面や田島組フロント企業社長権現を救出する場面等)、重要な人物で次作「黒石」でも回想という形で出てくる荒井真理花については、ほとんど記憶に残っていませんでした。

事件のキーパーソンは、陸永昌という人物なのですが、その人物は前作「絆回廊」で登場するのでそれも読み直そうと思います。この種の小説では、冒頭に登場人物リストが掲載されている場合があるのですが、多くの登場人物が出てくるためか、この小説ではありません。ですので、読み終わった後に自分で作成しました。これを次回作を読む前に読めば復習にもなります。

事件の概要
事件のあらましを時系列に記します。読者の立場から、本小説の概要を読後にまとめてみました。
1.約8年前ヨンユウチョル(チャスンチャジャ:死神)というという北調整工作員がカンボジア人のパスポートを使って日本に入国します。目的は本国北朝鮮に非協力的な在日朝鮮人を暗殺することです。その後、在日朝鮮人の罠にかかって、ヨンユウチョルは日本に寝返ったと嘘の噂を本国指導部に流され、その嘘を信じた北朝鮮指導部から裏切りものとして、支援を切られる。ヨンユウチョルは在日朝鮮人コミュニティにも北朝鮮本国指導部にも頼れず、殺し屋となり、北朝鮮指導部に恨みを持つようになります。
2.北朝鮮指導部のホンはタミフル100万人分を供与してくれたら代わりに拉致被害者の情報を教えると日本政府(内閣情報調査室)に打診します。内閣情報調査室(内調)はその話に乗りますが、北朝鮮は国際的な制裁対象になっており、たとえ医薬品であっても正式には供与できません。内調は北朝鮮にタミフルを密輸出することにしますが、密輸手段を持ちません。そこで、非合法な手段に長けたアウトロー的な陸永昌に密輸出業者を紹介してもらいます。そこで陸永昌が内調に紹介したの密輸出業者が華恵新でした。
3.内調はタミフルを華恵新に渡し、後は密輸出を待つだけとなります。密輸出の実務を担当するのは、古橋一機という残留孤児二世で、残留孤児のネットワーク「金石」のメンバーです。同じ「金石」のメンバーである新本ほのかにそのタミフルの密輸出の件が伝わります。新本ほのかからタミフルの密輸出の件がヨンユウチョルに伝わります。ヨンユウチョルは北朝鮮指導部に恨みを抱いており、たとえ人道的な理由からでも、タミフルを北朝鮮に送ることには反対です。そのため、タミフルを北朝鮮に密輸出しようとしているのを阻止しようと華恵新を殺害します。
4.[ここから小説が始まります]
ヨンユウチョルは北朝鮮への復讐だけを目的に華恵新を殺害して、死体もタミフルも放置します。大量のタミフルが意図しない形で見つかった際のトラブルを避けるために警視庁公安部(東亜通商研究会)が動きます。殺人事件として捜査が進められている刑事警察(新宿署)の動向を探るために、警視庁公安部はスパイとして矢崎隆男を新宿署生活安全課に送り入れ、鮫島警部と組ませ捜査状況を探らせます。北朝鮮側はタミフルを調達しようとした北朝鮮政府幹部を割り出すために華恵新に民泊を貸した暴力団 田島組のフロント企業の権現を誘拐して吐かせようとします。警視庁公安部(東亜通商研究会)、暴力団 田島組、北朝鮮政府エージェント、陸永昌、金石メンバー、鮫島警部らが入り乱れて事件は進んでいきます。
今回、事件の概要をまとめていて改めて思ったのですが、この作品の奥深さ(カオス)が分かりました。一回読んだだけでは全体を把握できません。逆に今のエンターテイメント小説はここまで複雑にしないと受け入れられないのかも知れません。
登場人物

  • 阿坂景子:新宿署生活安全課新課長
  • 矢崎隆男:新宿署生活安全課課員(警視庁公安総務課課員)
  • 高川和(黄):フジ緑化社長。金石メンバー。中国残留孤児二世
  • 倉木(如):
  • 古橋一機(丘):中国残留孤児二世 北朝鮮への密輸業者
  • 呉竹宏:呉竹畳店二代目
  • 華恵新フウア・フィ・シン():違法民泊KSJマンションで殺された北朝鮮密輸業者
  • 新本(あらもと)ほのか(荒井真利花):中国残留孤児三世。金石メンバー。
  • 久保由紀子(赤):新本ほのかの叔母。中国残留孤児二世。
  • 陸永昌(張):中国人ブローカー。樫原茂の息子。
  • ユンヨンチョル(田中):北朝鮮工作員。死神(チョスンサジャ)と呼ばれる殺し屋
  • 黒井:古本屋・栄古堂主人。元公安警察官。二重スパイ
  • 権現:暴力団田島組フロント企業社長
  • 浜川:田島組幹部
  • ホン:北朝鮮指導部幹部。タミフルの受け取り手
  • イサンゴン:北朝鮮工作員
  • ペクジャンゴン:北朝鮮海外情報局幹部

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