小説「黒石 新宿鮫XII」の書評・レビュー

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(※内容について本文で一部言及しています。未読の方はご注意下さい。)

今回レビューするのは新宿鮫シリーズの最新作の「黒石 新宿鮫XII 大沢在昌 著 光文社」のレビューです。

新宿鮫シリーズは好きなシリーズなのでよく読むのですが、新刊が出るまでの間隔が長く新刊が出版されたころには前の小説のラストを覚えていないということがよくあります。本作品でも序盤で矢崎とういう人が出てくるのですが、前作、「暗約領域 新宿鮫XI」で出てきたキャラが再登場するのですが、思い出すのにしばらく時間がかかってしまいました。以前の新宿鮫は割と一作一作が独立していた感じがしたのですが、最近の作品は前作前前作との関連が深くなっている感じがします。最新作が出るたびに前の作品のおさらいをする必要があるようです。

本作品自体も読み進めるうちに複雑化していきました。前作前々作のキャラが登場するのはもちろんのこと本作品で新たに登場する人物も多数いて錯綜していきます。一回読んで取り敢えずストーリーは把握できたのですが、登場人物の関係性までを把握するためには2回読まなければなりませんでした。

小説冒頭いきなりメールの挨拶文から始まり、そのあとに中国語訳の文章が続くので何だろうと思います。ここでもうワクワク感がMaxになります。メールの伏線は作中で回収されます。勘のいい人ならかなり早い段階で意味が分かるのでしょうが、私は作品中盤まで伏線の意味に気づきませんでした。

新宿鮫シリーズではよく殺し屋が出てくるのがですが、その設定がマーベル映画のようなスーパーヴィランという描かれ方をしているではなく、訓練はされているのですが常人の範囲内の殺し屋として描かれています。その殺し屋に狙われる鮫島警部も単に強がるだけではなくむやみに怖がるでもなく、その未知の殺し屋に対して恐怖を感じている心理状態が描かれているのがリアル感を増す原因だと思います。

新宿鮫シリーズでよく使われている手法なのですが、ストーリーの合間に現在の日本の治安状況などが解説風に記述されています。ストーリーに溶け込む感じで現在の犯罪の状況等が理解できるので、そういった面からも色々と勉強になります。

黒石と呼ばれる殺し屋の使用する「スマッシャー」が花崗岩を加工した鉄アレイ状の殺害道具という事は分かりました。しかしその全体の構造については、言葉による説明だけで全体にどのような構造だったのかは分かりにくいです。このあたり、挿絵か何かで補足してもらっていた方が分かりやすかったのではないでしょうか?それとも模倣犯が出ることを懸念して敢えて詳細に説明しなかったのでしょうか?

最後に黒石は逮捕されるのですが、スマッシャーで鮫島刑事に復讐する場面を妄想して終わります。まだまだ、黒石の殺人は続くのかなと思いました。しかし、これだけ人を殺せば生きて娑婆に出られることはないと思い直し、黒石が殺人者と描かれるのはこの作品で一応終わりかなと思い直しました。

この小説には金石という中国残留孤児二世三世のコネクションが出てきます。その中核メンバーが八石と呼ばれていますが、ほとんどのメンバーが殺されたか、今回登場してメンが割れました。まだ作品の中に名前しか出てこないメンバーに公園と呼ばれる人物と雲師という女性のキャラがいるようです。この雲師は現在中国の大連に住んでいるらしいのですが、次回作では、この雲師が登場すると予想しています。この仮説があっているか早く次回作が読んでみたいです。次回作が出版されたら読む前にこの「黒石」を読み返して復習したいと思います。

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